研究テーマ

<シアノバクテリアにおける新規フラビン結合タンパク質PixDの機能、構造解析>

岡島 公司 (博士取得→現:大阪府大ポスドク)

   多くの生物にとって、細胞内の酸化還元 (レドックス) 状態は代謝や刺激応答においても重要な要因である。このため、生物は 多種多様な光受容体やレドックスセンサーを発達させている。特に光合成生物であるシアノバクテリアでは光やレドックスの変化によって重大な影響を受けるので、さまざまな感知・応答システムをもっている。しかし、これらのセンサーとして機能する分子や、シグナル伝達について詳しくはわかっていない。
   最近、新規のフラビンを結合している青色光受容体が見つかっている。ミドリムシ (Euglena gracilis) のPACタンパク質は、青色光励起によってそれ自身のアデニル酸シクラーゼ活性を上昇させるフラビンタンパク質であり、光驚動反応に関わる光受容体として働いている。光合成細菌 (Rhodobacter sphaeroides) のAppAタンパク質は、青色光によって光合成遺伝子の発現を抑制する青色光受容体として働いている。これらPACやAppAには保存された新規フラビン結合ドメインが存在する。しかし、その3次構造や光受容の機構などは不明である。シアノバクテリアにおいても、このフラビン結合ドメインと相同な領域をコードするslr1694tll0078遺伝子が見つかっているが、その機能やタンパク質の性質について報告例はない。また、このドメインはバクテリアのゲノム上に広く散在しており、その多くはシアノバクテリアと同様な150前後のアミノ酸からなるタンパク質であると推定される。シアノバクテリアにあるこれらのタンパク質の解析を行うことで、バクテリアにある新規センサータンパク質の機能、機構を明らかにできると考えた。

   

シアノバクテリア Synechocystis sp. PCC6803においてslr1694遺伝子の破壊株(Dslr1694)を作成し、その走光性を調べたところ、走光性に関わるタンパク質をコードしていると考えられた。タンパク質の解析を行うためにSlr1694タンパク質と、そのホモログである好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatus BP-1(生育温度55度)のTll0078タンパク質をHisタグ融合タンパク質として大腸菌で発現、精製した。これらのタンパク質は、酸化型のFADが非共有結合しており、300 nmから500 nmにかけて吸収を示した。FADがタンパク質と結合していると蛍光強度は低く、解離すると高くなる。このことを利用し、タンパク質の熱に対する安定性を調べるために、熱処理前後のタンパク質溶液の蛍光スペクトルを測定した。

   

その結果His-Tll0078タンパク質は95度、10分処理でも蛍光強度は変わらず、熱的に非常に安定であるといえる。大腸菌で発現させた好熱性シアノバクテリアのタンパク質でも熱的に安定であり、タンパク質の解析に有用な材料であると考えられる。立体構造を明らかにするために、X線結晶構造解析のためのTll0078タンパク質の結晶化を行った。His-Tll0078タンパク質は凝集体を形成しやすく結晶化に適さなかった。そのため、タグ無しでTll0078タンパク質を大腸菌で発現させ、ゲルろ過カラム、陰イオン交換カラムを利用して精製を行った。約95%に精製できたTll0078タンパク質をつかってX線結晶構造解析に使用できる結晶が得られた。現在、この結晶を使用し構造解析を行っている。