糸状性シアノバクテリアにおけるPASドメインの網羅的解析

〜新奇センサーPASドメインの検出を目指して〜


序文   糸状性シアノバクテリア Anabaena sp. PCC 7120は、窒素固定を専門的に行うヘテロシストを分化させる複雑な生活環を持ち、そのゲノム解析・ポストゲノム解析から、多くの知見が得られることが期待される。2001年にAnabaena 7120の全ゲノム配列が決定され、情報伝達タンパク質が多く存在していた。特にPASドメインが豊富に検出された。PASドメインは、アミノ酸配列は多様だが立体構造は保存されているスーパーファミリーであり、様々なセンサー、二量化のリンカーなどの多様な機能ドメインを含む(図1)。私はこれまでに、Anabaena 7120から計140個のPASドメインを検出し、他の生物に比べて非常に多いことを明らかにした (Ref. 1)。しかし、これらのうち、機能既知サブファミリーに属するPASドメインは、4つしか存在せず、他のPASドメインは機能未知であった。これまでに、PASドメインは様々な刺激のセンサーとして機能することが知られているため、Anabaena 7120における多くの機能未知PASドメインの中に、新奇センサーPASドメインが存在することが期待された。



ストラテジー   そこで、これらの機能未知PASドメインの中から新奇センサーPASドメインを見出すことを目的として、研究を進めた。まず、インフォマティックな手法による選別を行い、効率よく実験検証することを考え、Nostoc punctiformeに着目した。Nostoc punctiformeは、Anabaena 7120同様、ヘテロシストを分化させて窒素固定を行うシアノバクテリアである。ストラテジーを分かりやすく図2に示した。

クラスター解析、オルソログ解析、シンテニー解析、マッピング解析 (in silico)   Ref. 1で検出した140個のPASドメインを基に、Anabaena 7120から143個、Nostoc punctiformeから180個のPASドメインを検出した。クラスタリング解析により、計64個のサブクラスと35個のオーファンPASドメインに選別した(Ref. 2)。クラスタリングしたPASドメインを基に、36対のオルソログを同定した(オルソログ解析、Ref. 2)。22対はタンパク質の全長に渡って保存されていたのに対し、残りの14対は片方、或いは両方において主にPASドメインの挿入・重複が見られた。Anabaena 7120やNostoc punctiformeにおいて、これらのドメインが挿入・重複を繰り返したことが推測される。つまり、両種の共通祖先タンパク質は単純なドメイン構成であったと考えられ、両種間で現在保存されているPASドメインが祖先タンパク質から受け継がれた必須な機能を保持していると推測した(例として図3)。さらに、シンテニー解析とマッピング解析により絞り込み、25対の推定センサーPASドメインを抽出した (Ref. 2, Ref. 3. シンテニー解析は未発表)。

網羅的生化学解析 (in vitro)   これらのPASドメインについて、網羅的に大腸菌での発現・精製し、その機能について検索中である(図4)。現在までに、5つの機能未知PASドメインについて解析したが、センサーとしての機能は同定できていない。

ヘム結合PASドメインの詳細解析 (in vitro)   上記の25個の推定センサーPASドメインの中には、相同性から機能を予測できるPASドメインも存在する。中でも、推定ヘム結合PASドメインに着目した。窒素固定型生物において酸素センサーは、ニトロゲナーゼの酸素防御機構として重要な役割を果たすと考えたためである。推定ヘム結合PASドメインは、既知のFixLや大腸菌のDOSタンパク質のヘム結合PASドメインとは異なる、第三のヘム結合PASドメインと考えられた。生化学的詳細解析の結果、ヘム鉄の酸化型・還元型で共に六配位型を示し、大腸菌のDOSタンパク質とよく似ていた。DOSタンパク質は一次配列の相同性は高くなく、進化の収斂の可能性が示唆された。また、Alr2428の全体としての刺激感知機構に迫るため、ヒスチジンキナーゼの自己リン酸化活性やDNA結合ドメインのDNAとの結合能なども併せて解析した。

文献
1. Ohmori, M., Ikeuchi, M., Sato, N., Wolk, P., Kaneko, T., Ogawa, T., Kanehisa, M., Goto, S.,Kawashima, S., Okamoto, S., Yoshimura, H., Katoh, H., Fujisawa, T., Ehira, S., Kamei, A.,Yoshihara, S., Narikawa, R. and Tabata, S. (2001)
Characterization of genes encoding multi-domain proteins in the genome of the filamentousnitrogen-fixing Cyanobacterium Anabaena sp. strain PCC 7120. DNA Res, 8, 271-284.
2. Narikawa, R., Okamoto, S., Ikeuchi, M. and Ohmori, M. (2003)
Newly identified motifs within PAS domains of filamentous cyanobacteria. Genome Inform SerWorkshop Genome Inform., 14, 404-405.
3. Narikawa, R., Okamoto, S., Ikeuchi, M. and Ohmori, M. (2004)
Molecular evolution of PAS domain-containing proteins of filamentous cyanobacteria throughthe domain shuffling and domain duplication. DNA Res, 11, 69-81