光合成のバイオテクノロジー
(2011.4.21更新)
低温・光条件で、好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanus RKNを培養することで誘導される、特異的な細胞凝聚現象を発見した(Hirano et al. 1997)。これは光阻害を防御する特異な順化応答現象と考えられる。
近縁のT. elongatus BP-1のゲノムを解析し、3種のセルロース合成酵素様遺伝子を見出した(Nakamura et al. 2001 DNA Research 9: 123-130)。
われわれは、T. vulcanus RKNの低温・光誘導性の細胞凝集が、細胞外にセルロースが蓄積することが原因であることを示した。これらの遺伝子を、細胞凝集を示すT. vulcanus RKNからクローニングした(早乙女2004、修士論文)。
T. vulcanusのセルロース合成酵素様遺伝子tll0007 tlr1795 tlr1930-33を破壊し、tll0007破壊株だけがセルロースの蓄積が大きく低下すること、低温・光誘導性細胞凝集を示さなくなることなどを実証した(Kawano et al. 2011 Plant Cell Physiol. in press)。
これによって、好熱性シアノバクテリアが、低温・光条件で示す細胞凝集の原因遺伝子、凝集物質、凝集の生理的意義の全容がほぼ明らかになった。本研究は、今後のシアノバクテリアによる光合成物質生産のモデル物質として重要なステップを提供することになるであろう。
T. vulcanusの細胞凝集 各種酵素処理による細胞凝集の解消 セルロースの蓄積
多くのシアノバクテリアは細胞外多糖を生産する。細胞外区画への光合成生産物の蓄積は、細胞の増殖を必要としないという点ですぐれた戦略である。われわれは、細胞外多糖として、スピルランなど有用なものを生産するArthrospira platensisの培養を開始した。
Arthrospira platensis走査電顕像
光合成の主要産物は、通常、αグルカンやβグルカンなどの多糖類である。これらの産物の合成酵素(たとえば、セルロース合成酵素)の研究を通して、光合成機能の増強や効率的な利用方法の開発を目指している。また、これを可能にするために、シアノバクテリアの遺伝子操作法の改良・開発を進めている。