トランスクリプトーム

Synechocystis sp. PCC 6803の全ゲノム配列が決定され、そのゲノム情報を基に、全遺伝子を網羅したDNAマイクロアレイが作製された。そこで、我々は環境応答と転写因子に着目し、トランスクリプトーム解析を行い、環境応答時の転写ネットワークの解明を目指している。


環境応答解析

光、酸素、過酸化ストレスなどに応答した遺伝子発現をDNAマイクロアレイにより、網羅的に解析する。

1.強光応答 (Hihara et al. 2001 Plant Cell 13: 793-806PDFファイルダウンロード)

シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803における弱光から強光への順化過程をDNAマイクロアレイによって解析した。影響を受けた遺伝子を160個以上同定し、分類した。光の吸収や光化学系に関わる遺伝子群は15分以内に抑制された一方で、CO2固定や光阻害に対する防御系に関わる遺伝子群は誘導された。DNAの複製・転写・翻訳に関わる遺伝子群の発現変化はより後期に生じた。

2.酸化還元状態応答 (Hihara et al. 2003 J Bacteriol 185: 1719-25)

シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803の遺伝子発現への光合成電子伝達阻害剤の効果をDNAマイクロアレイによって解析した。DBMIBはプラストキノンプールの酸化を、DCMUはプラストキノンプールの還元を阻害する。これらの阻害剤によって、再現性よく、約140個の遺伝子の発現が影響を受けた。これまでプラストキノンプールのレドクス状態が遺伝子の発現を大きく左右しているといわれてきたが、そのような応答を示した遺伝子はごく少数のストレス応答性のものだけで、期待された光合成の遺伝子群は、プールのレドクスを反映する応答は示さなかった。

3.過酸化ストレス応答 (Kobayashi et al. 2004 Plant Cell Physiol 45: 290-299)

シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803をメチルビオロゲン・強光処理して誘導される遺伝子をDNAマイクロアレイで同定した。過酸化ストレス下では、sll1621遺伝子が強く誘導されており、Sll1621タンパク質が、新規抗酸化タンパク質であることが強く示唆された。

4.光応答 (片山)

シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のゲノムには、少なくとも8種のフィトクローム様遺伝子がある。これらの遺伝子の破壊株の遺伝子発現をDNAマイクロアレイ解析し、光環境に応答して遺伝子発現制御にかかわる候補遺伝子を見いだした。

転写制御機構解析

シアノバクテリア・ポストゲノムプロジェクトとして、DNAマイクロアレイとゲルシフトアッセイを組み合わせて、転写因子による様々な遺伝子発現制御機構の解明をめざしている。

1.活性酸素種応答転写因子群の解析(小林・石塚智)

・Slr1738レギュロン:DNAゲルシフトアッセイによって、転写制御因子Slr1738が還元状態で標的遺伝子sll1621の上流配列に結合すること、slr1738破壊株ではsll1621の発現が構成的に高くなることを示した。また、sll1621の破壊株を作製し、通常条件でも酸化ストレスを受けていることから、活性酸素傷害に対するもっとも重要な防御遺伝子であることを示した。 (Kobayashi et al. 2004 Plant Cell Physiol 45: 290-299)

・Sll0088レギュロン:

2.光応答転写因子の解析(片山)

3.新規転写遺伝子群の解析(松本浩・小倉・矢野・亀井)

・転写因子様遺伝子slr0701の機能解析

・運動性に関わるCRP様遺伝子sll1924sycrp2)の機能解析

Synechocystis sp. PCC 6803のlexA様遺伝子の機能解析 (亀井)

・シアノバクテリアのLexA様タンパク質の生化学解析(矢野)

DNAチップ(マイクロアレイ)による解析chip image



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