光合成の進化の研究


[興味・背景]

酸素発生型光合成生物はどのようにして出現したのか?

光合成生物では、生物個体の生理が、生態的・進化的に成功するかどうかということと密接に連関している。この連関を、分子生物学的に、遺伝子レベルで解明したい。


[研究]

1)実験進化学からのアプローチ

シアノバクテリアのゲノムの可塑性を自殺遺伝子の挙動から解析する(小林)
  シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803は、多数の挿入配列や繰り返し配列を持っている。われわれは、光化学系の遺伝子解析の中で、チトクロムc550の遺伝子psbV破壊株はCaやClフリーの培地では光合成的に生育できないが、未知の輸送体の遺伝子の不活性化が起こると生育できるようになることを見いだした。このような変異株を解析することで、多数の遺伝子変異を特定の遺伝子座に集中的に検出できるすぐれた系を開発した。

Synechocystis sp. PCC 6803の小進化の追跡(亀井、池内)
  1996年にゲノム情報が決定されたSynechocystis sp. PCC 6803は、様々な株が様々な研究テーマで研究されているため、その小進化を追跡できる絶好のモデル生物である。(
Ikeuchi and Tabata 2001 Photosynthesis Res. 70: 73-83, PDF download)

シアノバクテリアでのクロロフィルb合成酵素の発現 (Satoh et al. 2001 J Biol Chem 276: 4293-7, PDF download)
  シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803は、クロロフィルaとフィコシアノビリンをおもな光合成色素としている。一方、高等植物や緑藻などは、クロロフィルabを光合成色素としている。われわれは、高等植物からクローニングしたクロロフィルb合成酵素(CAO)をSynechocystisに導入して、クロロフィルbの合成を試みた。組換生物はクロロフィルbを合成し、おもに光化学系1複合体に取り込まれて、光捕集の役割を果たしていた。このことは、シアノバクテリアが異なるクロロフィル色素を取り込む余地(能力?)をもっており、緑色植物が進化的に出現しうることを実験的に実証している。(北大・田中歩教授、山口大・三室守教授との共同研究)

人工環境へのシアノバクテリアの進化の実証(日原)
  われわれは、強光下で野生株よりもよく増殖できる変異株を単離し、その変異株では光合成調節遺伝子(pmgA)が機能を失っていることを見いだした。この結果は、逆説的ではあるが、野生株はpmgAに働きによって強光下での光合成能力を自ら抑制していることを示している。これは、光を利用する光合成生物としては、逆説的なしくみであるが、われわれは、現実の研究室で野生株からpmgA変異株が自然突然変異で出現し、最終的に野生株を駆逐したことを実証した。(Hihara and Ikeuchi 1997 Photosynthesis Res 53: 243-252)
  pmgA変異株と野生株の競争実験を行い、短時間の強光条件では、pmgA変異株が優占することを示した。一方、細胞密度を低く保って、長時間の強光条件で培養すると、野生株が優占した。このことは、強光下で光合成能力を抑制するpmgA遺伝子は、長時間の強光で生じる光損傷を避けることが本来の生理的役割であることを示している。(Hihara et al. 1998 Plant Physiol 117: 1205-1216, PDF download)


2)遺伝子に見る進化

偽遺伝子

培養株間の変異


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