光化学系複合体の構造と機能の解析
[背景]
光化学系2複合体の特徴
[研究テーマ]
われわれは、光化学系2複合体の構造と機能を知るために、以下の研究を進めている。
1)光化学系遺伝子のクローニングと機能解析
形質転換型シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803の系1反応中心分子の遺伝子を破壊した株を用いて、新規の光化学系2タンパク質を同定し、その遺伝子をクローニングした。その遺伝子破壊株を作成し、これらのタンパク質の役割を解析している。(加藤)
好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatus BP-1の光化学系2遺伝子を破壊した変異株を作成し、その系2複合体を単離し、遺伝子破壊の影響を解析している。これによって、従来のSynechocystisの変異株ではできなかった変異系2複合体の生化学的解析が可能になった。(加藤、岩井)
T.
elongatus BP-1のpsbX 破壊株の解析 (Katoh
and Ikeuchi 2001 Plant Cell Physiol 42: 179-188)
psbX がコードする4.1kDaタンパク質(PSII-X)は、シアノバクテリアから高等植物まで広く分布している小型膜貫通性タンパク質である。この遺伝子の破壊株を初めて作成した。
QB部位における2,6DCBQなどのキノン受容体への電子授受に影響が認められたが、水分解系などには大きな影響は認められなかった。
T.
elongatus BP-1のpsbVのクローニングと新規c型チトクロム遺伝子の発見、解析 (Katoh
et al. 2001 Plant Cell Physiol 42: 599-607)
水分解系の表在性タンパク質チトクロムc550は、シアノバクテリアや下等真核藻類に分布しており、水分解反応の進行に重要な働きをしているといわれている。この遺伝子(psbV)をT.
elongatus BP-1からクローニングし、その破壊株を作成した。psbV破壊株は水分解能はあるものの、Cl−イオン要求性が上昇していた。さらに、psbVの下流には、新規c型チトクロムをコードする遺伝子(psbV2と命名)とチトクロムc553をコードするpetJが存在していた。psbV2は上流のpsbVと下流のpetJのhybrid様遺伝子で、両遺伝子の重複と組み換えによって生じたと考えられる。このpsbV2をSynechocystisのpsbV破壊株に導入したところ、光合成増殖の増進が見られ、その機能が推定された。
T. elongatus BP-1のpsbI、psbK、psbU遺伝子をクローニングし、破壊株を作成した。(加藤、博士論文)
T. elongatus BP-1のpsbB、psbTc遺伝子をクローニングし、psbT遺伝子を破壊し、系2複合体の二量化に関わることを見出した。(Iwai et al. 2004 Plant Cell Physiol 45: 1809-1816)
T. elongatus BP-1のpsbH遺伝子を破壊し、系2複合体のアセンブリーに関わることを見出した。また、psbH遺伝子破壊株においてPSII-Xタンパク質の系2複合体へのアセンブリーが起こらなくなることから、PSII-Hタンパク質を介してPSII-Xタンパク質が系2複合体に結合していることが推定された。(岩井、博士論文)
T. elongatus BP-1において、系2活性中心D1タンパク質をコードするpsbA遺伝子は、3個存在する。それぞれの遺伝子を2個ずつ破壊し、単独のpsbA遺伝子のみを持つ変異体を作製した。その結果、psbA3が最も重要で、psbA2は殆ど働いていないだろうことが推定された。今後、psbA3のみを持つ株に対して、部位特異的変異導入を行うことにより、D1タンパク質の詳細な機能解析を目指す。(岩井、博士論文)
好熱性Thermosynechococcus elongatus BP-1の系2遺伝子の操作などを目指して、形質転換法の改良、従属栄養で増殖できる株の作製などを目指している。
T. elongatus
BP-1の形質転換法の改良 (Iwai
et al. 2004 Plant Cell Physiol 45: 171-175)
・トップアガーを用いることで、形質転換したコロニーの形成効率を改善した。
・コンストラクトを工夫することで、single recombinationとdouble recombinationが生じていることを示した。
・Synechocystisなどと同様の自然形質転換能をもつことを示した。
・I型制限酵素遺伝子を破壊することにより、形質転換効率を改善し、これまで単離できなかった変異導入株を単離できた。
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